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細々とこっそりとちまちまと

アイドルソングの感想・レビュー、ライブレポ。

Dorothy Little Happy「STARTING OVER」特集

2013年7月28日、TOKYO IDOL FESTIVAL2013二日目のスマイルガーデンで、ドロシーは素晴らしいパフォーマンスをしました。

現場で見ていて僕が何に感動させられたかといえば、最後の曲を歌う前、佳奈ちゃんが「最高のデモサヨナラをお見せする」と話していたことでした。最高のものを見せると言って、その通りに最高の時間をくれたのです。今のドロシーは有言実行です。

そんな彼女たちが今度は5人それぞれに「わたしたちの自信作です」と話す2ndアルバム『STARTING OVER』。

前作『Life goes on』が2013年の作品の中でも相当よくできたアルバムだったことから、ハードルは上がってしまいますが、どうやってそれを超えてくれるのかワクワクしながら待っていました。

ライブでの先行披露、チッタ川崎での初パフォーマンス、ラジオでの音源公開、公式ホームページの試聴など、情報が明らかになるにつれて期待と確信は高まることになりました。とんでもないアルバムになる、と。

その期待は、ある意味で大きく当たり、ある意味では大きく裏切られることとなります。

自分が考えていた以上にクオリティが高く、また、今までに感じたことがない共感を呼ぶアルバムになっていました。

 

何が聞き手を共感させるのか。それを考えて、探ってみたいと思います。

 

 

いいアルバムの条件

『STARTING OVER』について考える上で“いいアルバムの条件”について定義してみたいと思います。それは、

  1. いい曲が多く入っている
  2. 曲順や曲間、サウンドで統一感を持たせている
  3. 全曲を通して一貫したテーマを感じさせてくれる
  4. 他のどんなアルバムとも違う体験ができる

過去の僕の年間ベストを例として出しますが、ぱすぽ☆『One World』、私立恵比寿中学『中人』いずれも曲の良さだけではない魅力に満ちていて、4つの条件を満たしていると思います。楽曲集として考えれば1番は必須ですし、40~80分の作品として考えれば2番や3番も欲しいところです。それが聞く人の年間ベストともなれば特別な何かになるために4番も欠かせないはずです。

 

『STARTING OVER』では、アルバム用の新曲がとにかくいいです。シングルカットされてもおかしくないくらいのクオリティで、サウンドもグッと良くなっています。相当な数のデモ曲ときちんとした制作体制ができていることが予測できて、きっと僕たちが買った『colorful life』やオリコンの順位などが勝ち取った勝利かもと妄想して嬉しくなってしまいます。笑

 

その上で、そんな制作上のメリットの恩恵をはるかに上回るレベルで、よく考えられて作られているアルバムです。もう、音がいい曲がいい聞きやすいなんて呼吸するくらいに簡単に乗り越えていて、さらに大きな何かを伝えてくれているイメージです。それは、今までに音楽作品から味わったことがないような体験です。ぞわぞわします。

一方で、僕がよく知っている感覚でした。

 

 

一本の映画のような体験

ひとことで言えば『STARTING OVER』はよくできた映画みたいな体験をさせてくれました。

映画の種類は恋愛映画、手法は最近見たものだと『小さいおうち』に近いものです。手練れの脚本家が組んだ伏線のように、アルバムの別々の曲がそれぞれ独自の魅力を発揮しながら、一枚通して聞くとディテールの意味がリンクして、もっと大きな意味を生み出し、アルバムを聞き終わる頃には骨格や輪郭、加えて人格までも構築されているように思えてしまいます。

 

例えば、アルバムの中には『COLD BLUE』、『colorful life』、『青い空』など色彩を意識させる曲名のものが多く、聞きながら映像が浮かんでくるような工夫がされている曲が多いです。

曲順や歌割りにも明確な意図があって、2曲目『2 the sky』と3曲目『colorful life』は歌い出しがどちらも美杜、3曲目『colorful life』と4曲目『恋が走りだした』の落ちサビは瑠海ちゃんとなっています。

『恋が走りだした』で曲名の通り恋に気付き物語が本格的に動き始め、そんな期待と不安を明らかにする役割を『ASIAN STONE』が担っています。そうして恋愛感情が盛り上がる様子は高揚感たっぷりな5曲目『CLAP! CLAP! CLAP!』~7曲目『どこか連れていって』で表現されています。その後、恋愛物語は8曲目『言わなくてよかった』でドラマチックな急降下をしていき終わりへと向かっていきます。

そして、リーダーで最年長の佳奈ちゃんがメインボーカルをつとめる最後の曲『明日は晴れるよ』がさながらエンドロール的にこの少し哀しい物語を締めくくります。

このように起承転結がはっきりとした構成になっています。

でも、これくらいならたまにあるコンセプトアルバムの名盤くらいの評価です。『STARTING OVER』が本当にすごいアルバムである理由はここからです。

 

一番わかりやすい部分を抜き出して説明してみます。

恋愛感情のはじまりと終わりの曲である『恋は走りだした』と『言わなくてよかった』の2曲だけを続けて何回か聞いてみると気付くことがあります。歌い出しはどちらも瑠海ちゃん、『恋は走りだした』で「あの子がもし 君とまさか」と不安を歌った麻里ちゃんは、『言わなくてよかった』ではエスカレーターでの決定的瞬間のことを歌います。『恋は走りだした』の最初と『言わなくてよかった』の最後の叫び声も意図して繋げられているのではないかと思ってしまいます。

もちろんこのディテールは邪推に近いようなくみ取り方をして推測していますが、アルバムの中ではじまりと終わりを示した2曲が、対比になっていることにはそこそこ確信があります。

単体では底抜けに明るくて前向きな『恋は走りだした』が、アルバムを繰り返し聞くと、それだけではない何だか寂しい余韻を持つ曲として感じられてしまうのです。

 

もうディテールを示すことはしませんが、収録曲を「これは明るい曲」、「これは寂しい曲」と単純に色付けすることを許してくれないアルバムです。

明るい曲の裏側には影があることを示し、寂しい曲にはかつてあった輝きを感じさせる工夫が他の曲との繋がりによって表現されていると思います。僕のようにほとんど粗探しのような作業でディテールの繋がりを探らなくても、アルバムを聞き込む中でちょっとずつそんな工夫に気付かせてくれるはずです。

とてもディテールにこだわって、繋がりに注意して作られているアルバムです。制作時期も違えば制作者も違う中でどうやってここまで違う曲同士で意味のやり取りを成し遂げたのか、ある意味で『STARTING OVER』の白眉な部分です。

 

そして、このアルバムで最大の繋がりであり、最大の対比関係にあるのが『ストーリー』と『STARTING OVER』でしょう。『ストーリー』はとっても明るい曲でアルバム全体の物語構造を示唆するような役割を持っていると思います。でも、『ストーリー』で歌われることは片思いの最中の思い込みや妄想の類に近いものではないでしょうか。そんな一方通行で独りよがりの世界が『ストーリー』の明るさの正体であるのに対し、「ひとりで生きていけない」と繰り返す『STARTING OVER』は哀しさの中に決意や強さを感じさせてくれます。アルバムを通して恋愛の甘さもほろ苦さも描いています。『STARTING OVER』の中にあるのは、そうした誰もが経験する恋愛の両面の物語であり、それを呼び起こすエンターテイメント性こそが2ndアルバムのテーマであり本質なのだと思います。

 

 

『Life goes on』から『STARTING OVER』

冒頭の“いいアルバムの条件”には実は異なるふたつの視点が混ざっています。2番と3番は制作者の技術や技量で盛り込むことができるのに対して、1番と4番は聞き手の主観に左右される部分があまりに大きいです。いい曲として受け取ってもらい、特別な体験をしてもらうには共感してもらい、好きになってもらうことが一番です。

 

1stアルバム『Life goes on』はドロシーの姿がよく分かる作品です。自分たちの境遇や諦めない意志と大きな夢や憧れを伝える曲が多く、ドロシーにしか歌えない物語を描いて、『Life goes on』でしか得られない感情や体験を与えてくれました。歌われるドロシーの姿に聞き手は惹かれ、等身大の彼女たちの物語に共感します。そんな共感が収録曲をますます輝かせました。

 

そんな偉大な前作とはまったく違うアプローチで『STARTING OVER』は作られています。もっと大きな物語を描くことを目指し、より多くの人の心に響く作品を作ろうとしました。

 

シングル曲である『colorful life』や『ASIAN STONE』は本来、ドロシー自身の成長と挑戦を歌った曲であるにも関わらず、2ndアルバムの中ではそうした彼女たち自身の物語を主張するのではなく、『STARTING OVER』という恋愛物語の1シーンを構成する役に徹しています。

シングル曲をこんな風に使うことができることがひとつ驚きですが、それを可能にしたのは多彩で高水準な楽曲と5人の成長であることは間違いありません。『STARTING OVER』を成立させているのはドロシー自身の成長であり、そこに物語を感じることは十分に可能でしょう。でも、『STARTING OVER』ではそうした成長物語すらも飲み込むもっと大きな恋愛物語を表現することに挑戦し、それを成し遂げました。

そう、『Life goes on』では優れたドキュメンタリーの主役だったドロシーの5人は、わずが1年の間に大きく成長し、『STARTING OVER』というエンターテイメント性が高い恋愛物語を成立させました。結果として、『Life goes on』を超えて多くの人の共感を呼び、好きになってもらえる、ますます“いいアルバム”として『STARTING OVER』は完成したのです。

 

前作を超えること、より多くの人の心に届くこと、決して簡単ではない自分自身との戦いにドロシーは打ち勝ったのです。

 

 

君が描くストーリーは

そんなこんなで、長々と語って参りました。でも、これが絶対の正解だと僕は思っていません。僕は映画が好きなので、こんな風に見えてしまっただけだと思います。

 

今さら何だよって思われるかも知れませんね。すみません!笑

 

本が好きな人、ロックが好きな人、スポーツが好きな人が聞けば、その人の好きに共感して、その人なりの物語を『STARTING OVER』は見せてくれるのではないでしょうか。もし、僕がドロシーの専ヲタをできる気質があって、ドロシーがほんとのほんとに好きだったら、やっぱりドロシーの物語として聞いていたんじゃないかと思います。

聞き手の気持ちに絶対的に響いて、みんなの大切な作品になるような仕掛けと熱量と実力があるアルバムです。

 

ドロシーの佳奈ちゃんは『STARTING OVER』について「10年経っても色褪せない、そんな作品を作りたかった」と話します。

僕は、きっと10年経っても心に何かが残る作品であると確信しています。

それと、10年後に聞いた誰かの胸にも響いて新しい物語を描いているのではないでしょうか。

いつだってドロシーは有言実行なのですから。