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細々とこっそりとちまちまと

アイドルソングの感想・レビュー、ライブレポ。

ちまちまアイドルソング47「sky traveler」/Dorothy Little Happy

Dorothy Little Happy『sky traveler』

 

sky traveler

sky traveler

  • Dorothy Little Happy
  • J-Pop
  • ¥250

 

仙台在住のガールズユニットDorothy Little Happy(ドロシー)の9枚目のシングルです。曲名の通り、空と旅がテーマの楽曲で、夏らしい爽やかなサウンドが魅力です。

 

サウンドといえば、CDに収録されているインストが素晴らしい出来でした。冒頭のピアノの響きと、続いて展開される弦楽器、楽曲を支えるバンドサウンドも絶妙に一歩引いていて全体のバランスを考えながら演奏されています。細かいところでは、グロッケンやウィンドチャイム、クラップなどがスパイスとして効いていて、ギミック的にもこだわって作られていると感じました。

 

近年のアイドルソングの魅力のひとつが「ギミックの多さ」です。他の様々な音楽ジャンルから面白い要素、新しい要素を貪欲に取り入れられるようになり、アイドルソングの楽しさを支えています。一方で、僕の勝手なイメージですが、ドロシーはそうしたギミックから徐々に距離を置いてきたように思います。

特に最近のドロシーのサウンドはすごくシンプルです。ロックだったりハウスだったり、ポップソングだったりバラードだったり、様々なジャンルに挑戦しながらも、一曲一曲の中で独立(孤立)した世界を作ることを目指しているように思えるくらい、それぞれのジャンルの「王道」「正攻法」を突き詰めた楽曲ばかりでした。そんな挑戦の成果が2ndアルバム『STARTING OVER』でしょう。

 

アイドルソングの「ギミックの多さ」について考えてみると、ドロシーの挑戦の本質が見えてきます。楽曲の中に様々な要素が詰め込まれてしまうのには2つ理由があると思います。曲の作り手(作曲者、プロデューサー)がどうしても表現したいサウンドだったのでしょう。現在、最も「CDが売れる」アイドルシーンでは、作り手にもチャレンジが許され、したいことができます。もう1つは、多くが歌い手としては未熟なアイドルを補助しながら楽曲のクオリティを維持したいという気持ちの表れです。

良い方に言えば、最近のドロシーはそうした作り手の表現意欲や予防線から距離を置く道、つまりはドロシーの5人ができるだけ大きな責任を持つという覚悟を取りました。ほとんど「虎穴に入らずんば虎子を得ず」な賭けでした。結果として、シンプルなサウンドの楽曲が、ドロシーの歌や表現の魅力を伝えることに成功し、5人を飛躍的に成長させましたが、一歩間違えたなら、曲も歌もぼやけたアイドルとして後退してしまったことだと思います。

あえて、悪い方に考えると、そうしなければならなかったドロシーは作り手を信じ切ることができなかったのかもしれません。どのアイドルよりも控えめで慎重で奥手である彼女たちは「自分で責任を持った方がいい!」とどこかで考え、楽曲制作にも意見を出すようになり、楽曲としてはシンプルな、歌としてはハードルが高い楽曲を歌うアイドルになっていきました。

結果としてその賭けには大勝利しました。5人のポテンシャルに勝算もあったことだと思います。でも、アイドルソングという様々な表現が許される世界で、長期的に続けることは明るくない道とも考えられます。大傑作だった2ndアルバム『STARTING OVER』はそんな表現のある種の到達点に違いなく、いつかリリースされる3rdアルバムに向けて同じ方法論では難しいかもしれません。

 

すごく気持ちはわかります。僕も「自分で責任を持った方がいい!」という人間なので。誰かに何かをまかせることはすごく不安で、ストレスで、心配なのです。でも、それでは先に進めない、壁にぶつかることも明らかで、どこかでその壁を飛び越えることが必要だとわかっています。

 

旅とは、非日常そのものです。そこでは、いつもの生活から離れて、自分という小さな枠を越えた「新しい自分」と出会うことができます。つまり、「新しい自分」が生まれるのは、知らない世界での知らない人との出会いがあってこそなのです。

出会いの素晴らしさを歌った『colorful life』から1年、成長したドロシーは、もう一度出会いを歌いました。『colorful life』では予感だったものが、『sky traveler』では実感であり、新しい自分と出会うために必要なものとして描かれているのです。

そうして、“出会い=知らないもの=非日常=旅”の歌である『sky traveler』で、サウンド面で新しく大きな冒険をしたことに説得力を感じるのです。

 

そんなこんなで、『sky traveler』は「おもちゃ箱をひっくり返したような」サウンドの楽曲です。この比喩はアイドルソングを語る上で、もはや定型文的に使われる、定番の表現です。でも、それを歌うドロシーは今のアイドルシーンで最もエッジがある表現ができる、もはや定番の枠の中にいません。

 

ドロシーが開いた新しいページは、きっと誰も見たことがないような次のページに続いていて、旅を通してもっともっと素晴らしいものを見せてくれると思います。

 

ぜひ、その1ページ目を感じてください! この曲で! 

 

sky traveler

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