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細々とこっそりとちまちまと

アイドルソングの感想・レビュー、ライブレポ。

ちまちまアイドルソング56「アッハッハ 超絶爆笑音頭」/SUPER☆GiRLS

SUPER☆GiRLS『アッハッハ 超絶爆笑音頭』

avexのアイドルレーベルiDOL STREET所属の12人組グループSUPER☆GiRLS(スパガ)の11枚目のシングルです。毎年、海や水着をテーマにした楽曲を夏曲にしていましたが、第二章ということで心機一転、テーマはお祭り。
そうしたチャレンジの結果、とかく物議を醸し出す作品になっているかもしれません。
 
さて、この“ちまちまアイドルソング”は「放っておけないアイドルソングの魅力を伝えること」を目指している連載記事です。楽曲の面白みや聞き方について発見や気付きを持ってもらうことを狙って書いているつもりです。そういう意味で、この作品ほど“ちまちまアイドルソング”の存在意義が発揮できるときも珍しいと思っています。はっきり言って、相当気合が入っています!
 
この記事はあくまで、“アッハッハ擁護派”として魅力を伝えていきます。すでにハマっている人も、ピンときてない人も、飛ばし飛ばしでもいいので読んで考えてもらえると嬉しいです。
 
それでは、まいりましょう(`・ω・´)
  
 

初見殺しのスルメ曲

元々はゲーム用語で、正攻法が通用しない仕掛けがあって、予備知識がないままでは難易度が高いものを“初見殺し”と呼びます。ルールや仕組みが独特で初回では理解が難しいものにも使われて、『アッハッハ』はまさにそんな感じです。
この曲を聞いて「よくわからなかった」「ピンとこない」と思う人は多いはずです。僕も最初はそうで、わけがわからずポカーンとしていました。その反応はすごく正しくて、そういう狙いで作られている曲なのです。
これから色々なことを書いていきますし、後ほど初見殺しであることに演者が敏感であって欲しいことについても触れますが、大前提として『アッハッハ』は1回や2回聞いただけではどうにもならない作品であることは強調しておかなければなりません。多くの聞き手にとって、ちょっと聞いただけで「好き」「嫌い」を見いだすことが困難な楽曲のはずであり、多少頑張って固いものを噛み締めるように繰り返し聞いて、音楽を体に馴染ませてもらうことが必要な作業であるように思えます。
音源を何回も聞いて、MVをリピートし、ライブに通ううちに、この曲の持つ代え難い巨大な魅力が少しずつ感じられるはずです。まさに“スルメ曲”と呼ぶのがふさわしく、聞けば聞くほど味が出てきて、伝わってくるものがある楽曲なのです。
 
  

実はすごくスパガらしい曲

そうして繰り返し聞いていくと、スパガらしい曲になるように配慮されていることに気付きます。細かいディテールがよく考えられているのです。
例えば、サビのアレンジは『MAX☆乙女心』以降の夏曲でのファンク要素が強いものですし、歌詞の世界観は『1,000,000スマイル』などのものを踏襲していると受け取れます。
歌割りも面白く、サビ直前の煽りが1番は志村、2番は勝田で、Dメロの順番が溝手るかちゃん→渡邉幸愛ちゃんだったりするところはひとつ前のシングル『花道!!ア〜ンビシャス』を綺麗になぞっている構成です。
スパガ楽曲では、過去のモチーフやテーマを新しい曲に使い、繋げていく手法がときどき見られます。それは『アッハッハ』でも見られ、使われる要素や、そうしたセルフサンプリング的な楽曲作りの姿勢そのものに“スパガらしさ”がある作品だと僕は思います。

 

アッハッハ! ~超絶爆笑音頭~ (CD+Blu-ray)

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音頭が長すぎる問題

一方で、今までスパガ曲になかった巨大な要素があります。それが、お祭りであり、音頭・民謡的な展開です。
1番でAメロBメロにあたる部分が音頭になっているこの曲は、転調しテンポアップしたサビでアイドルソングらしさを一瞬見せながら、2番に入るとテンポダウンして音頭に戻ります。テンポも関係して、サビが一瞬で終わる印象が強く、楽曲全体の6〜7割は音頭という印象すらあり、思っているより音頭が長いと僕も最初の頃思っていました。
「長く続く音頭が受け入れられない」という人が1番多いのかもしれません。そういう人は発想を転換すると良いと思います。『アッハッハ』は「高まるサビはおまけで、音頭のAメロBメロこそがメイン」の曲なのですから。
 
僕はときどき、「アイドルソングには多様性がある」「様々なジャンルを吸収できる」と書いてます。しかし、今の音楽シーンの中で、本当にそうなのでしょうか。実態に合っているでしょうか。
アイドルソングは商業音楽の側面が強い存在です。聞き手を盛り上げること、売れることが優先されることが多く、自然と、一般に聞かれている音楽ジャンルの枠の中に留まってしまっているのではないかと思います。現状では、R&B、メタルやHIPHOPなど売れ線の音楽ジャンルの中で色々な曲があることを「アイドルソングに多様性がある」と僕は言っていて、真の多様性とは言い切れないのが現実です。
 
だから、もし、『アッハッハ』のことを直感的に「売れそうにない曲」と思う人がいるのなら、その人たちの感性は正しいと思います。この曲は売れ線の音楽ジャンルの枠をはみ出しているのですから。初見殺しであり、すんなり受け入れてもらえることを放棄したこの作品は、ある面では確かに商業性を二の次にしていると言える作品です。
反対に、もし、「売れそうにない曲=駄目な曲」と意識的にも無意識的にも思っている人がいるのなら、その人たちが音楽を聞く土台の部分に商業性が根付いていて、感性の一部が凝り固まっているのではと思わざるを得ません。それは仕方がないことで、普通に音楽を聞いている限り商業音楽の枠の中なのですし、真剣に『アッハッハ』について考える以前の僕も、そちら側だったはずですし。
売れ線ではなくても世の中には多くの音楽があります。そもそもジャンル分けすること自体が不可能なもの、理解を超えて惹きつけられてしまうものも多くあります。『アッハッハ』の音頭を受け入れ、AメロBメロをメインとして考えることは、そうした音楽の真の多様性に目を向ける入口になると今は思っています。
 
 

古くて新しいお祭りソング

続いて、アイドルソングの文脈で、音頭としての『アッハッハ』について考えてみます。過去のアイドルソングやポップミュージックでも音頭・民謡をモチーフとしたものは数多くあります。
古くはソフトクリーム『コアラ音頭』、榊原郁恵『しあわせ音頭』、酒井法子『のりぴー音頭』など。妙に音頭に力を入れているのがハロプロ勢で、おどる11『しあわせきょうりゅう音頭』、℃-ute『ドドンガドン音頭』、スマイレージ『スマイル音丼』、モベマス『負けるな、わっしょい!』など。近作では、神奈川県のご当地アイドル・川崎純情小町『川崎純情音頭』や、BABYMETAL『メギツネ』などがあります。
 
アイドルソングにおける音頭・民謡は、大きく2つの系統に分けることができます。
1つは企画色が伝統的な音頭の形を守って、狙って作られたようななものです。コミックソングとしての要素が強く、時代が古いものはだいたいこちらですし、ハロプロ勢も多いです。
もう1つはグループの色を強く残し、音頭や民謡独特のディテールをあくまでモチーフとして記号的に扱っているものです。『負けるな、わっしょい!』はダンスチューン、『川崎純情音頭』はアイドルソング、『メギツネ』はメタルのそれぞれ得意なジャンルの色が強く前に出た曲となっています。
 
こうして並べてみると、やはり『アッハッハ』の特異な存在感に気付きます。曲の立ち位置は上の2つのどちらとも違っていて、強いて言えば、音頭のコミックソング的な存在感も生かしつつ、スパガというグループの色が並列して打ち出している印象です。
 
そんな『アッハッハ』を聞いて連想した1枚のCDがありました。それはアイドルのものではなく、大石始さん監修のコンピレーションアルバム『DISCOVER NEW JAPAN 民謡ニューウェーブ Vol.1』です。
DISCOVER NEW JAPAN 民謡ニューウェーブ VOL.1【監修:大石始】

DISCOVER NEW JAPAN 民謡ニューウェーブ VOL.1【監修:大石始】

 
アルバムを監修した音楽ライターで民謡DJもつとめる大石始さんはこのように話しています。
「民謡や郷土芸能をオリジナルなスタイルで継承している方々に対してはリスペクトを捧げたうえで、あえてこれらの楽曲に〈新しい日本の唄〉のイメージを重ね合わせてみたくなった。僕はそうした唄とリズムに対し、癒しやノスタルジーではなく、圧倒的なエネルギーと瑞々しいヴァイブレーションを感じる。
(中略)
僕にとっての〈民謡〉とは、わずか数年前までは古臭いキーワードでしかなかった。ただ、そうした世代の視点からこそ見えてくる日本の土着的リズム/メロディーの美しさもあるのではないだろうか。
 
収録曲を抜粋して紹介します。動画も見てみてください。
 

1曲目アラゲホンジ『藍や真紅に白い百合』はオリジナルソングのようですが、ラテンのリズムとバンドサウンドと民謡の融合がユニークで楽しく、盛り上がります。

 

2曲目馬喰町バンド『あんせんこんせん』は岐阜のわらべうたをアコースティックサウンドで聞かせてくれます。本来の語感(ライミングの上手さ)とリズムの良さが光ります。

 

 

テンポが速い曲だけではありません。7曲目『会津磐梯山』は福島民謡で、盆踊りの音楽としても使われるそうですが、弾き語りで優しく歌うことでエモさが増しています。
 
 
他にもビートが強調された阿波踊り『アワ〜ふたつでひとつ〜』、富山民謡の越中おわら節をヒップホップにした『mirage landa』、アイヌ音楽家・安藤ウメ子さんの歌をサンプリングした『hup tare dub』など、日本の伝統音楽を現代のアーティスティックな視点でリブート(再生産)したような作品が詰まっています。*1
 
このコンピCD『DISCOVER NEW JAPAN 民謡ニューウェーブ Vol.1』は3・11以降に起きた日本の伝統音楽や民謡に再注目するムーブメントの中でできた作品です。天災を受けて、日本や現代のあり方を見直し、忘れてはならない伝統とさらに未来に繋げるための今の技術の使い方を考え、音楽の中で、古きものと新しいものがミックスされて花咲いている作品が収録されたアルバムなのです。
 
そして、僕には『アッハッハ』も同じような成り立ちの作品なのだと思えてしまいます。アイドルソングにおいて2つに分かれていた音頭・民謡を扱う文脈の古い部分と新しい部分をハイブリッドできていて、どちらとも違う、古くて新しい音楽を聞かせてくれるのです。その根底にあるのもやはり日本を元気にしたい、みんなで笑い合いたいというマインドだと感じます。
 
 

MV撮影参加とお祭りの本質

少し話はそれますが、僕はクラウドファウンディングで募集された『アッハッハ』のMV撮影に参加しました。そのときの記事がこちらです。
 
スパガMV撮影エキストラ参加のこと(書ける範囲で) - 細々とこっそりとちまちまとスパガMV撮影エキストラ参加のこと(書ける範囲で) - 細々とこっそりとちまちまと

6月22日、スパガ新曲のMV撮影エキストラに参加してきました。こちらはインターネット上で支援者と資金を集める“クラウドファンディング”の仕組みを使った試みです。...

 
こんな風に「自分が参加してるから思い入れが強い」と思われてしまうかもですが、それは半分合ってて、半分違っています。
 
一般論として、お祭りに関わるスタンスは「中で踊る人」と「外で見ている人」に分かれてしまいます。例えば、僕が住んでる函館でも“イカ踊り”をする変わったお祭りがありますが、僕は参加したことがないので思い入れもなく「誘われたら面倒くさい」とすら思っているところもあります。お祭りが地域の団結を強くする機能を持っていて、一方で、家族構成や住まい方の変化の影響として、お祭りを「外で見ている人」というスタンスが増えてきています。その結果として起きている現象がこうした“お祭りに関わるスタンスの分断”なのです。
そして、奇しくも「初見殺しのスルメ曲」という性質を持つ『アッハッハ』は、「中で踊る人」と「外で見ている人」に聞き手を分断しやすい作品になってしまっています。狙っているものなのかどうかは僕には分かりませんが、それは前述したような「お祭りの本質」を突いていると言えます。
 
今まで、「始まる前のドキドキ感」や「最中の楽しさ」、「終わってしまう切なさ」などはお祭りソングの定番要素として扱われてきました。実は「内側の人は楽しく、外側の人はそうでもない」ことを表現している楽曲はほとんどないと僕は思います。
 
音源をじっくり聞くこと、MVを繰り返し見ること、ライブ中のパフォーマンスに注目すること以上に、「参加する」ことで楽しめるのが『アッハッハ』なのです。曲に乗って踊り、合いの手を入れ、いい感じに歌って、みんなで盛り上がることが『アッハッハ』を“真のお祭りソング”として成立させることでしょう。
 
幸いなことに、僕はMV撮影で3時間近く曲に合わせて踊らされる中で(半分受動的に)「参加する」機会をもらいました。そうして「参加する」ことが楽しさを生み出すのだと知ることができたのです。
でも、どうでしょう。
アイドルが好きで、ライブに行くことが好きな人ならば、こうした曲の中で盛り上げて、ライブに自分自身が「参加する」楽しさを感じたことはあるんじゃないでしょうか。
人それぞれ自分に合ったスタンスでも、部分的にも気持ちだけでも、「参加する」ことで楽しさが何倍にもなる代表格が『アッハッハ』なのだと思います。
 
仲間と行った地元のお祭りや、学校の文化祭・体育祭。様々なお祭りで、ひとりになってしまって楽しめなかった思い出や、くだらないことでも笑い合って騒いではしゃいだ思い出、誰でもどちらも経験すること、記憶にあるものだと思います。その違いを分けたのは“ちょっとした積極性”で、“「参加する」気持ち”だったのではないでしょうか。
真に「お祭り」を表現してしまった『アッハッハ』の間には、斜に構えたりせず、無理やりでも前のめりになって「参加する」ことを本気でおすすめします。少し積極的になるだけで、『アッハッハ』の曲の力が盛り上げてくれるはずですから。
  
 

『アッハッハ』に期待すること

そんなこんなで、曲の中身、成り立ち、テーマについて色々と書きました。
冒頭に気合が入っている件を書いた通り、今までで一番長い記事になってしまったことを軽く反省しています。
とにかく今までにない楽曲ですから、伝えるべきことが多く、こんな長文になってしまいました。読んで頂いた皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。
 
この記事を通じて楽曲の魅力が伝わればこんなに嬉しいことはありませんし、逆に「やっぱりわからない」という人がいても、寂しい気持ちもありますが仕方がないようにも思えます。先日のIDOL NATION NEXTでもスパガの枠で『アッハッハ』を見ることができましたが、特に初見の人がポカーンとしている姿もありましたし。
 
聞き手のひとりの立場では「初見殺しだから」と繰り返し聞くことを提案することしかできません。でも、もしも、演者ならポカーンとしている人を引き込めるような工夫ができるのではないかと思いました。
例えば、そういう人たちに向けて指差したり手を振ったり目線を送ったりしながら、曲に「参加すること」を促せば、合いの手や踊りができなくても『アッハッハ』のお祭りに巻き込むことができるはずです。『アッハッハ』は聞かせること見せること以上に参加させることが大切な曲であり、ステージと客席がお互いにひとつになって盛り上がるような『アッハッハ』をいつか経験してみたいです。
そのためにも、『アッハッハ』がこの夏だけの限定ソングになるのではなく、長く歌われながら育って欲しいです。
 
そして、歌詞や世界観やサウンドがブラッシュアップされた『2015年版アッハッハ』が次の夏に聞けることを願いながら、この記事を終わります。ありがとうございました!
 

 

アッハッハ! ~超絶爆笑音頭~

アッハッハ! ~超絶爆笑音頭~

 

 

*1:FILE 142 V.A『DISCOVER NEW JAPAN 民謡ニューウェーブVOL.1』 http://tyo-m.jp/archives/16732