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細々とこっそりとちまちまと

アイドルソングの感想・レビュー、ライブレポ。

ちまちまアイドルソング65「17才」/アイドルネッサンス

 アイドルネッサンスは「ソニーミュージックアーティスツが40年目にして初めて立ち上げたアイドルプロジェクト」として結成された7人組ユニットです。
 J-POPの名曲をカバーするアイドルとして、このBase Ball Bear『17才』の他、真心ブラザーズ『どかーん』、木村カエラ『Butterfly』、Puffy『愛のしるし』、村下孝蔵『初恋』などを持ち曲として活動しています。


アイドルとカバー曲

 さんみゅ〜(サンミュージック)や武藤彩未アミューズ)など、今までもカバー曲を選んで歌うアイドルは存在していました。活動歴が浅いグループや持ち曲が少ないグループなど、カバー曲をセットリストに織り交ぜることも多くあります。かつてはももいろクローバーも路上ライブでGTP『冷凍みかん』などをカバーしていたと聞きます。
 さらに、レッスンやオーディションまで範囲を広げると、カバー曲を歌ったことがないアイドルの方が珍しいように思えます。アイドルとカバー曲の関わりは深いものなのです。

 一方で、アイドルネッサンスのカバー曲には新しい挑戦が2つあります。1つは曲目のチョイスについて。ライブが盛り上がるアップテンポの曲ばかりが選ばれるわけではなく、今のところ新旧アイドルソングのカバーもありません。そのため、ライブのセットリストにはアイドルのものとは思えない渋みがあります。
 もう1つはアレンジや見せ方について。元の音源のカラオケをそのまま使うのではなく、専用にリ・アレンジされています。ライブでは7人の声質にあわせて歌割りが決められていて、オリジナルダンスが振り付けられて披露されます。カバー曲として破格に思えるくらい手間がかかっていて、丁寧に大事に仕上げられている印象です。
 もちろん、先行するアイドルグループの中にも、数ある打ち手のひとつとして、こうした試みがされていたことはあると思います。その上で、アイドルネッサンスが挑戦的であり、選曲やアレンジ、見せ方が挑戦となっている背景には、カバー曲の役割の違いがあります。

 ほとんどの場合、カバー曲は「足りないものを補う」ために使われます。持ち曲の不足を補うためにセットリストに組み込まれ、会場の熱を高める選曲がされ、繰り返し歌われることでアイドル本人のスキルを上げる効果を生みます。活動を補い、助け、成長させることがカバー曲の存在意義であり、やがてオリジナル曲が増え、成長を経て、その役目を終えるのが現行アイドルシーンにおけるカバー曲の役割でした。
 そんな常識を破ろうとしているのがアイドルネッサンスです。こだわって選曲され、丁寧に世に出されるカバー曲たちは、曲そのものが大きな意味を持ちます。自分たちなりの表現の可能性を曲にぶつけながら、曲が元々持っている魅力を引き出すこと、曲を広めていくことに活動の軸があります。つまり、埋もれている曲に新しい光を与えることがアイドルネッサンスの役割であり、カバー曲が主役なのです。

名曲ルネッサンス

 『17才』は2007年にリリースされたBase Ball Bearの2ndアルバムのタイトル曲です。まさか女の子に歌われることになるとは、最初に知ったとき結構びっくりしました。
 元々は、大人になった視点から振り返るように、かつての自分に語りかけるように歌われている曲です。それを、リアルタイム17才未満の女の子たちが歌うことで、視点が変わって、背伸びをしているような印象になります。拙い歌唱と弱さを感じさせる声、曲の良さを引き継ぎつつ、アイドルネッサンスでなければ引き出せない魅力がある『17才』に生まれ変わっています。

 カバー曲をオリジナルなものとして歌うことは普通の音楽シーン、アーティストシーンでは普通におこなわれていることでした。それが可能なのは、歌い手が自分の個性をしっかり持っているアーティストであり、聞き手はカバー曲を通して懐かしさと新鮮さを求めていたからです。
 アイドルネッサンスの『17才』はそうしたアーティストシーンでのカバー曲の存在感に近いものです。すでに打ち出せる個性があることには何を置いても驚かされます。同時に、これからも聞き手がアイドルのカバー曲に価値を見いだし続けることができるかどうか、まだ分かりません。アイドルシーンでもカバー曲文化が広がっていくことには課題もあり、比喩ではなくルネッサンスとして、文化のターニングポイントを迎えようとしているのかもしれません。


 アイドルネッサンスは自分たちの活動のことを「名曲ルネッサンス」と名付けています。このルネッサンスを通して曲と文化に新しい風が吹いて欲しいと結構本気で期待しています。
 そうして音楽の世界が広がること、アイドルシーンに刺激が加わること、どちらも興味深く追いかけていきたいです。