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細々とこっそりとちまちまと

アイドルソングの感想・レビュー、ライブレポ。

ちまちまアイドルソング67「控えめI love you !」/HKT48

アイドルソング 音楽

 福岡を拠点に活動するアイドルグループ・HKT48の4thシングル。明るくキャッチーな王道アイドルソング的曲調が結構好きで、ハマってしまいました。日本に3台しかないというモーションコントロールカメラ「Milo」で撮影されたMVも可愛らしいです。


本当はハードコアな48ソング?

 出せばオリコン1位な状況が続いている48グループの楽曲ですが、実際のところ、興味を持てなかったりちゃんと聞いたことがないアイドルファンは結構多いと思います。僕もそんなひとりでした。
 楽曲単位で好きな曲は過去にもありました。『ギンガムチェック』とか年間ベスト級に良かったです。でも、グループとして興味を持ったり、推しメンを作って現場に行きたいというモチベーションはありませんでした。そんな中、今回『控えめI LOVE YOU!』を好きになって聞いているうちに、48グループ全体のことを考えました。
 何となく、イメージで「48グループは曲のクオリティーは2の次」みたいなものがありました。失礼ながら、外にいるアイドルファンのひとりとして評価が難しかったり、切り口がつかめない楽曲が多い印象があったのです。でも、実際はそうではないということに気が付きました。
 独特で、他のアイドルソングとは少し違う48グループの楽曲の魅力について書いていきます。 

専用劇場型アイドルとして

 楽曲について語る前に、48グループが専用劇場型アイドルであることについて考えていきます。AKB48秋葉原HKT48は博多とグループ名に冠する地区に専用劇場を持ち、定期的にライブをおこなうことを活動の軸としていることは、今でもすごく大事な要素だと思います。
 専用劇場型アイドルは「決まった場所に、決まった時間に行けば会える」というメリットがあります。本気のファンは「通う」ことがモチベーションになり、AKB48ブレイク前夜の逸話として「毎日通った」みたいなエピソードはとても多いです。一方で、何も知らない人をファンにする場所としてはハードルが高いように思えます。興味を持った人、他媒体からのライトなファンの心をより強くつかむ場所として専用劇場は積極的に機能します。言い換えれば、ファンとアイドルの関係性を濃くするための場所であり、パーソナルなものであると錯覚させる入口として専用劇場は最大の力を発揮します。
 48グループが他の専用劇場型アイドルと大きく違うのは、劇場外での活動の割合です。テレビでは看板番組を持ち、アリーナクラス・ドームクラスのライブを成功させ、全国握手会では数万人を集めることと、小さな専用劇場での活動の両方をおこなっているグループは他にありません。
 大ブレイク後も専用劇場での公演を続け「会いに行けるアイドル」であろうとする姿勢と、楽曲の独特な魅力に、僕は同じ何かを感じています。専用劇場型アイドルだったからこそHKT48の『控えめI love you !』はこんなにも魅力的な歌になったのだと思います。

48ソングの世界

 HKT48『控えめI love you !』をぼんやり聞いていると、1番のサビ「部活頑張って」に引っ張られて応援歌だと思ってしまいそうですが、実際のところ、そういう歌ではありません。
 卒業まであと半年を残したある日の放課後に、教室の窓から校庭で部活に励む憧れの人を眺めて思いを馳せる、遠慮がちで自分に自信がない女の子の歌です。「部活頑張って」は憧れのその人には向けられた言葉ではなない女の子の声であり、それは「部活頑張って」の前の歌詞が「独り言」であること、2番のサビの同じ箇所の歌詞が「ずっと遠い人」であることからも読み取れます。
 こうした詳細で具体的な描写は48グループの楽曲全般に共通する特徴です。いつ、どこで、誰が、なぜ、何をして、どのように思ったのか、細かいところまで歌われていて、提示されるのは歌の登場人物が抱えた思いであり、パーソナルな世界観です。
 アイドルソングの定番として自己紹介ソング、自己言及ソングがあります。それは48グループの楽曲が提示するパーソナルな世界観と一見近いようで、性質が異なるものです。
 本人だからこそ説得力と熱量が増す自己紹介ソングに対して、「どこかの誰かの気持ち」を代弁しているのが48グループの楽曲です。歌詞やサウンドの中から、楽曲の登場人物の気持ちを読み取ることが求められ、そのために歌詞に具体的な描写があり、サウンドがそれを強化しています。聞き手は、他のグループの楽曲以上に想像力を働かせて、そこには、まるで小説を読むような面白さがあります。
 楽曲の中で、アイドルは役を演じているようなものです。歌の主人公になりきるアイドルと、曲を読み解き心情を想像するファンの関係性は、まるで演劇の舞台と客席のような距離感です。
 このように、本来は専用劇場の中でしか成り立たないパーソナルな関係性を、48グループの楽曲は疑似体験させてくれます。楽曲の仕掛けと聞き手の想像力によって、閉じた世界のままで広げることに成功しているのです。

アイドルソングの物語性

 これまで「アイドルソングの魅力は多様性にある」としてきました。様々なジャンルを飲み込んでフレッシュなものを生み出す土壌があり、破天荒に色んな音楽を聞かせてくれることに魅了されてきました。耳に残るメロディー、気持ちがいいビート。それは主にサウンドの面白さであり、今までに聞いたことがないような音や、自然と体が動いてしまうような楽しさと可愛さがあるアイドルソングを愛しいと思っていました。
 一方で、アイドルソングには物語があります。グループのそのときの状況やリリースのタイミング、グループの挑戦と成長が1曲1曲に記録されていて、それを読み解くことも楽しさです。また、ライブや曲との出会いなど個人的な体験もその曲が大切な曲になる要素です。
 思えば、読み解くように聞き、想像力でアイドルの世界と自分を繋げることが味わいを増す48グループの楽曲のあり方は、アイドルソングの物語的な面白さの結晶のようです。
 1曲1曲が別々の物語で、大切にページをめくるように1秒1秒を聞いていくことが代え難い音楽として『控えめI love you !』、48グループの楽曲は存在していて、それはある意味、アイドルソングの価値そのものです。