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細々とこっそりとちまちまと

アイドルソングの感想・レビュー、ライブレポ。

ハイタテキな歓喜の歌:ちまちまアイドルソング71「ハイタテキ!」/私立恵比寿中学

アイドルソング 私立恵比寿中学

 芸能事務所スターダストのアイドル・私立恵比寿中学の通算7枚目のシングルは、世にも珍しい“ハイタ的”ラブソング。パッと聞いて楽しく、じっくり聞くと深い楽曲です。


乙女は孤独で純情よ

 曲名の「ハイタテキ!」とは「歯痛」と「排他」のダブルミーニングです。これが、単なる言葉遊びで終わっていないのが面白いところです。
 個人的に、最近は歯の悩みと無縁な日々を過ごせていますが、過去にそうだったときのことを思い出すだけで、気分が暗くなります。歯の痛みは急に訪れて、ずっと付いてまわって、段々と何をするのも面倒になります。そして、歯の痛みは考えれば考えるほど気になり、ループにハマってしまうとそのことしか考えられなくなってしまいます。
 一方で、「排他的」とは自分以外の人や思想を絶対に受け入れない状態のことです。そうした人は、視野が狭くなっていて、他人のこと、今そのとき興味があること以外に気を配ることができません。
 そう考えると、冒頭の歌詞「乙女は孤独で純情よ」がテーマを示していることに気付きます。1番のAメロBメロを使って“ハイタ”が始まる背景をサジェスションし、サビの盛り上がりは他のことが考えられなく切迫感を表現します。
 それは、「孤独で純情」と言えば聞こえは良いですが、「ひとりよがりで経験不足」とも言える未成熟さから生まれる“歯痛的”で“排他的”な悲哀を歌っていることを示しています。
 

歯医者がコワイんじゃない

 歯の痛みは、放っておいて消えることもありますが、本当にどうにかしようと思うならすることは決まっています。
 おそらく、この曲での“歯医者”とは、恋愛における告白のような勝負を決定しなければならない場所のメタファー(比喩)なのでしょう。
 歯医者に行けば(告白してしまえば)、少なくとも今そのとき苦しんでいる状況を脱することができます。うまくいけば、痛みは消え、前よりもハッピーになることができるでしょう。
 でも、それが嫌なのです。問題は、決断を下した後に良くなるかどうかとかではなくて、歯医者に行く(告白する)という行為が自体が痛みを生むかもしれないことなのです。起きるかどうかも分からないことに勝手に恐怖して、確実で小さな一歩を踏み出すことができないのです。

ベートーヴェンの第九

 こうして読み取っていくと、底抜けに明るいアレンジと歌詞の遊び心とは反対に、どん詰まりな状況を歌った曲であると気付きます。「フリーズしたままで 終わる事が出来ない」と歌う、東京女子流の『Killing Me Softly』並の世界観と受け取ることもできるでしょう。
 だからこそ、ベートーヴェンの第九をサンプリングしたのではないでしょうか。『歓喜の歌』の名でも知られるこの曲は、絆を、勝利を、美酒を、音楽を“分かち合う喜び”を歌っています。それは、前述してきた『ハイタテキ!』で歌われているものと最も遠いものです。
 歌詞の上だけなら、『ハイタテキ!』は暗く後ろ向きな曲に違いありません。しかし、もしも歌詞の外側に1歩だけでも進むことができたなら、そこには今までとは違う景色があり、成長があるはずです。そうして、不安でひとりの世界の外側にこそ幸せがあることを表現している深みのある楽曲なのです。
 

新生・私立恵比寿中学の歌

 そんなこんなで、深読みすればするほど味わいが増して、考える意味がある楽曲なのだと思ってもらえたのなら嬉しいです。
 前作『バタフライエフェクト』では「終わり」と「誕生」、その果てにある輪廻という重厚なテーマを扱っていたことが思い出されます。
 思えば、ポップでキャッチーなサウンドと、重みと深みがある歌詞のギャップが新生・私立恵比寿中学の魅力のひとつなのかもしれません。歌詞の意味を考えながら聞いてみてください。


ハイタテキ! (初回生産限定盤A)(DVD付)

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