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永遠に中学生な人たち:私立恵比寿中学 2ndアルバム『金八』レビュー

 前作『中人』は大好きで、特別な作品です。大人と子供の中間を歌った音楽を聞きながら、自分の中の大人になりきれない部分をくすぐられるような気持ちになりました。個人的な感情を重ねてしまう作品でした。
 なので、新しいアルバムがリリースされると聞いて、すごく楽しみなのと同時に、聞いてがっかりするのではないかと勝手に不安になってしまっていました。でも、そんな不安はすぐに消えてなくなり、胸の高鳴りに置き換わることになりました。
 それでは、私立恵比寿中学(エビ中)の新たな傑作、『金八』について語っていきます。


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『金八DANCE MUSIC』とエビ中らしさ

 2ndアルバム『金八』収録曲は16曲、約70分の大作となったこのアルバムがどんなアルバムなのかは、2曲目に収録された『金八DANCE MUSIC』によく表現されています。
 何より、作詞・作曲を手掛けた前山田健一らしさが炸裂した楽曲です。それは、かつて彼がエビ中に授けた名曲(迷曲)たち『ザ・ティッシュ』、『オーマイゴースト?』などを思い出させる弾けっぷり。真面目な顔をして聞くことを許してくれません。同時に、この何でもありでぶっ飛んだ感じがエビ中の面白さなのだと、改めて思い出させてくれます。突き抜けてふざけた(ほめ言葉)新曲が超大箱を埋められる今になってもリリースされれることが嬉しく、念願を果たして出演した『ミュージックステーション』でこの曲を歌うエビ中の姿は痛快でした。
 『金八DANCE MUSIC』に込められた気持ちには2つの根っこがあります。1つはヘンテコな歌詞、有名すぎるギターのフレーズ、CMごっこなど変わったことを追求する「遊び心」です。もう1つは、番組に出たい、全国放送されたい、ブレイクしたい、など「今より先に進みたい」という気持ち、つまり、「成長」を求める気持ちです。
 こうした「遊び心」と「成長」はアルバムを貫いて存在します。それこそがエビ中らしさの芯なのだと思います。サウンドや歌詞や行間からこの2つを感じることで、『金八』が味わい深く感じられるように思います。

『金八』と『中人』と『絶版ベスト』

 3曲目『未確認中学生X』の歌詞は一見すると無意味に感じられます。そこでは大人が忘れてしまった他人にはわからないつたない恋心が表現されています。聞けば聞くほどユニークでかわいい楽曲です。4曲目『テブラスキー』は疾走感のある楽曲です。その勢いに乗せて青春の自由とまだ熟していない情熱を伝えてくれます。そして、卒業に反抗し、いつまでも中学生であることを宣言するする5曲目『キングオブ学芸会のテーマ』と、テンションが高く、底抜けに明るい楽曲が続きます。
 『中人』はよくできたアルバムでした。大人の階段を上ることや成長することについて収録曲を通して表現されていました。ポップソングとしても良質かつ実験的な楽曲がそろっていて、アイドルソング好きだけではなく満足度が高い、優等生的なアルバムと言ってもいいかもしれません。
 僕はこのアルバムに『中人』とまるで違う感触を持ちました。『金八』は元気がいいアルバムです。それは特に5曲目『キングオブ学芸会のテーマ』までの印象が強く、その「遊び心」はインディーズベストアルバム『エビ中の絶版ベスト』に近いと感じました。『絶版ベスト』は前山田健一の楽曲を中心に、クオリティやテクニック以上にピュアな感じと発想の面白さで勝負していたアルバムです。エビ中の原点である『絶版ベスト』を『金八』から感じるとは思ってもいなかったのでびっくりしました。
 昨年、エビ中は3人の転校(脱退)と2人の転入(加入)がありました。『金八』では、今のエビ中として、初期曲が持っていた勢いや無茶苦茶さ、ピュアさを表現しようとしているのかもしれません。そうした原点回帰を目指した背後にはメンバーの心の変化があると思いました。

はじまりはループする

 日本語ラップ独特の脱力感が心地よい6曲目『早弁ラップ』をはさんで、アルバムは後半戦に突入します。歌詞をよく読みながら聞いていると、8曲目『ちちんぷい』から12曲目『幸せの貼り紙はいつも背中に』まで楽曲の世界観がつながっていることに気付きます。恋がはじまり、胸の高鳴りはやがて胸の締め付けに変わり、巻き戻したい過去になってしまった様子が伝わってきます。もっと子供(ガキ)だったときのおまじない「ちちんぷいぷい」が、現実と向き合い少し成長して「ヨロレイヒ」に変わってしまったと思うと、切なくて仕方がありません。
 そうした悲しい恋物語のプレリュードとして7曲目『バタフライエフェクト』があります。トリッキーで抽象的な歌詞の中では、「終わり」と「誕生」、「別れ」と「出会い」がキーとなり、生まれて消えてを繰り返し「ループ」する世界を表現しています。そこでは、8曲目『ちちんぷい』からはじまる恋のエンディングまでを予見させ、すべての曲につながる要素を『バタフライエフェクト』が散りばめて持っています。このアルバムを何度も繰り返して聞けば聞くほど、この曲の持つ役割の大きさとポテンシャルに気付かされるのでした。
 後半戦では、より明確に「成長」について歌った楽曲が続きます。恋と心について歌い、そこでは「成長」がはじまりと終わりの繰り返しの中にあることを考えさせてくれます。伝えたい気持ちを伝えられる自分、殻を破った自分、今とは違う自分、そういうものになりたいと思う気持ちこそ「成長」のエントリー地点なのです。
 より等身大に近い歌からはメンバー自身の「成長」も感じられます。8人には個性だけではない確かなものがすでにあり、今のエビ中にしか伝えられない歌が心を打ちます。

「大人になること」と「大人にならないこと」

 アルバムは終盤戦。13曲目『ハイタテキ!』は第九、14曲目『大漁恵比寿節』はソーラン節、15曲目『買い物しようと町田へ』はサンバのリズムとサザエさんと、いろんなものが混じってる楽曲が最後に並んでいます。第九は年末、ソーラン節は総仕上げ感&打ち上げ感、サザエさんは日曜日の最後と、それぞれ終わりのイメージがつきまとい、アルバムがエンディングに向かっていることを感じさせる構成です。
 16曲目『蛍の光(Demo)』のレコーディングはギター弾き語り、ボーカルは一発録りだったそうです。一発録りだからこそ、演奏と8人の声がリアルタイムに変化していく様子が伝わってきます。冒頭よく聞くと聞こえるクリープハイプ・尾崎世界観の「いきます」の声に続いて、不安そうに歌い始める8人。手をつなぎ、お互いの目を見ながら歌っているのが伝わってくるようです。曲が進む中で、息を音に合わせられるようになり、やがてリズムと心は重なり、ひとつの音楽を作り上げます。1曲の中にエビ中の「成長」が詰まっています。
 『蛍の光(Demo)』の歌詞は、子供時代の終わりを予感させるものです。寂しさと喜びが混ぜこぜになった気持ちになり、大人になることの嬉しさと切なさについて感じさせてくれる歌詞です。この曲を聞いていると、3人が転校するときメンバーが何を思ったのかを考えてしまいます。夢を目指して居心地がいい場所を離れた3人は「大人になること」を選び、それを見送るメンバーは「大人になること」と「大人にならないこと」の意味を考えたのではないでしょうか。

永遠に中学生な人たち

 1曲目『二乗の事情』はエビ中8人によるコントです。会話が荒唐無稽な方向に脱線していく様子が面白く、反面、「中学生を演じること」はこのアルバムやエビ中の活動そのものを象徴しているようです。「永遠に中学生」とは、エビ中が作り上げているフィクションなのですから。
 アイドル好きや音楽好きに限らず、夢中になる趣味がある人たちは「子供っぽい」と言われます。こちらとしても、何かに熱中している間は自分が大人であるかどうかなんてことは忘れてしまっているはずです。実際の年齢のことは忘れて、胸の中に中学生が存在しているような感覚です。エビ中を聞いて心が躍るのは、僕たちの内面に「永遠に中学生」な部分があるからなのかもしれません。
 『金八』では大人と子供の世界が、ドアを1枚隔てただけの距離感で、すぐ隣にあるもののように感じられます。そのときどきで、どちらを選ぶかだけが大切で、本当の自分が大人でも子供でも関係なく、輝くものがあることを教えてくれます。そんな音楽を聞いていると、中途半端な大人である僕はどこか許されたような気持ちになります。このアルバムのあちこちに存在する「遊び心」が「大人にならないこと」のはちゃめちゃな楽しさと可能性を指差し、「大人になること」を目指す中で芽生える「成長」の甘さや苦みを感じさせてくれます。
 それは、「永遠に中学生」であるエビ中から、僕たちの中にある「永遠に中学生」な部分への応援歌のように聞こえます。そして、やはり僕は大人になりきれない自分を重ねてしまいます。エビ中だから歌える歌が詰まった『金八』は、今回も特別な作品となりました。