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細々とこっそりとちまちまと

アイドルソングの感想・レビュー、ライブレポ。

アイドルの可能性を広げる大舞台:HKT48指原座長公演 at 明治座 観戦レポート

HKT48 演劇 ライブ

 先日、HKT48の明治座公演に行ってきました。アイドルを好きになって、まさか明治座に行くなんて思っていなかったので、社会科見学的な意味でもすごく楽しみにしていました。
 歌舞伎を取り入れた公演は、今までのHKT48、もっと言えば様々なアイドルグループのコンサート・イベントとも違う面白さがありました。明治座140年の歴史で初めて女性アイドルグループとして"単独で"舞台に立ったHKT48。伝統と先端が重なる場所で、アイドルの可能性を伝えてくれたように思います。

第一部 博多少女歌舞伎『博多の阿国の狸御殿』あらすじ

 時は太閤秀吉、天下統一の後。
 京の四条河原では、博多からやってきた娘歌舞伎『博多の阿国一座』が芝居小屋を立てていた。阿国一座の花形、阿国(宮脇咲良)に憧れるたぬきのキヌタ(指原莉乃)は、妹分のおはぎ(矢吹奈子)とたぬ蔵一家の用心棒・ぽん太(酒井敏也)とともに芝居小屋に忍び込み、阿国の踊りに魅入っている。そこに噂を聞きつけてやってきた太閤秀吉(高木稟)は、ひと目で阿国を見初めてしまった。
 一方、キヌタたちの仲間、極道たぬ蔵一家の面々は、親分・たぬ蔵(岡森諦)の大幹部昇進がかかった『たぬき祭り』に向けて、資金の荒稼ぎ中。娘に化けては色香を使い、若い男たちから金を巻き上げていた。芝居小屋から引きずられるように帰ってきたキヌタに、「この大事なときにレクリエーションだなんて!」と詰め寄るたぬき一家たち。キヌタは「レクリエーションなんかじゃない!」と一家の元を飛び出してしまう。
 キヌタを追ったおはぎとポン太。3人は阿国一座にもぐり込もうとオーディションを受けるが、たぬきであることを座員に見破られてしまう。おはぎとポン太を守ったキヌタはひとり捕まるが、太閤のお座敷から帰ってきた阿国に救われる。しかし、阿国は太閤秀吉の御側女になることを約束させられていた。キヌタは大好きな阿国を救う決意を固めるのだが──?!
(パンフレットより)

演劇『博多の阿国の狸御殿』の面白さ 〜2人の友情物語〜

 物語の中心が娘歌舞伎『博多の阿国一座』にあるように、HKT48というアイドルグループに重ねられて書かれた演劇となっています。当て書きに近い役になっているメンバーも多く、ひとりひとりのキャラクターの面白さや、その役を通して感じられる魅力など、語り出したらキリがないくらいです。
 そんな中で、キヌタと阿国の2人に焦点を絞って、この演劇の面白さを見ていきたいと思います。あらすじと重複しますが、劇の流れを追いかけながら、2人の少女の友情物語を振り返っていきます。

 キヌタは人間を騙してお金を奪うたぬきの生活が嫌で仕方がありません。自分を救ってくれた親分への恩、似たような境遇で集まったたぬ蔵一家の仲間を大切に思う気持ち、どちらも十分にわかっているはずなのに。大事なことがわかっていながら、他の仲間のようにできません。そうしたキヌタの気持ちは、阿国を憧れる気持ち、娘歌舞伎に入りたいという気持ちに向かっていきます。

 言うなれば、キヌタは"ヘタレ"なのです。でも、どうでしょう。やるべきことはわかっているのに、今の自分にはもっと何かできるかもしれないと思ってしまうこと。ちょっとした現実逃避。誰もが持っている気持ちではないでしょうか。機転が利いて、ここ1番で度胸を発揮するキヌタですが、実は「普通」の人に近いキャラクターなのです。
 そんなキヌタのキャラクターは演じる指原莉乃のイメージとも重なります。2013年のAKB総選挙で1位となり、現在テレビ番組にも多く出演する彼女ですが、その最も大きな資質が「普通」さなのだと僕は思います。誰よりも「普通」の人の気持ちがわかるアイドルであり、誰よりも「普通」を入口にファンに驚くような世界を見せてくれるアイドルです。彼女はその「普通」さで成り上がり、人を惹きつけます。

 ある日、娘歌舞伎『博多の阿国一座』を見たキヌタは華やかなステージに感激し、ますます娘歌舞伎と阿国のことが大好きになります。「博多の阿国一座に入ってセンターに立ちたい」そんな夢を口にするほど思いは強くなっていたのでした。

 華があり、技術があり、強い意志がある。娘歌舞伎『博多の阿国一座』のリーダーでセンター阿国は、まさに娘歌舞伎のアイドルでありスターです。
 阿国は、演劇の中で最も求められるものが多い役です。誰もが憧れ、他の子とは違う何かを持っていて、圧倒的な魅力を感じさせる人物です。そして、もし阿国がそういう「特別」人物に見えなければ、キヌタや太閤秀吉の動機がリアリティーを欠いてしまいます。そんな役を、1000人以上が生で見ている舞台の上で演じなければならないのです。小説や漫画などフィクション性が高い媒体でなければ、違和感なく見られないようなバランスのキャラクターです。
 そんな阿国ですが、ご覧になった方はどう感じましたか? 完璧だったと言っていいのではないでしょうか。演技が上手い、所作や発声がいい、そういうこと以上に、阿国が登場して、照明が当たり、台詞を話すたびに場の空気を引っ張る「特別」な力が生まれていたように感じました。確かに"娘歌舞伎のアイドル"阿国がそこにいました。宮脇咲良は華やかに物語を支えていました。
 『希望的リフレイン』のセンター、『マジすか学園4』での主演、最近の彼女の活躍は目覚しいものです。誰もが立てる場所ではない場所に立ち、ある意味でエンターテインメントの頂点を経験し、今なお現在進行形で高みを目指している宮脇咲良だからこそ、阿国のスター性やアイドル性に説得力を感じさせてくれたに違いありません。舞台の上での彼女は最高に輝いていました。

 さて、娘歌舞伎に入団しようとしたキヌタの企みは失敗し、捕まってたぬき汁にされそうになってしまいます。阿国はそれを救い、2人は心を通わせることになります。そのとき、阿国はキヌタに初めて夢を語るのです。

 「自分たちは恋の歌を歌い、恋の踊りを踊る。でも、私は恋をしたことがない。だから、1度でいいから恋というものをしてみたかった」
 それは、あまりにささやかなものでした。物語の終盤、あっと驚くような形でキヌタは阿国の夢を叶えます。とてもユーモラスで楽しく、同時に切ない場面だと思いました。でも、例え仮初めものだとしても、恋をしている阿国はすごく幸せそうに見えました。
 そして、阿国はお返しとしてキヌタの「博多の阿国一座に入ってセンターに立ちたい」という夢を叶えます。たった1度だけかもしれない夢の時間、憧れのグループのセンターポジション。それは、キヌタにとって最高のご褒美です。阿国との友情の結晶です。本当に幸せな時間でした。今流れているこの音楽が止まらなければいいのに、と僕は思いました。

 阿国はキヌタの前では「普通」の顔を見せ、キヌタは阿国のために「特別」な勇気を発揮する。阿国は自分の「弱さ」を見せることを知り、キヌタは自分に負けない「強さ」を見せることができました。そんな2人だからこそ、お互いの夢を叶え合うことができたのだと思います。そうしてたぬきと人間、ファンとアイドル、立場を超えて本当の友達になったのです。そうしたポジティブな友情物語です。

第二部 HKT48ライブ『踊る!たぬき祭り』セットリスト

1.川の流れのように(指原莉乃)
2.フライングゲット
3.Baby!Baby!Baby!
4.制服が邪魔をする
5.今度こそエクスタシー
6.君の名は希望(指原莉乃&宮脇咲良)
7. 風は吹いている
8.スキ!スキ!スキップ!
9.会いたかった
10. 桜、みんなで食べた
11.あなたがいてくれたから
En1.ロックだよ、人生は…
En2.恋するフォーチュンクッキー
En3.メロンジュース

 ライブの1曲目『川の流れのように』は秋元康氏が作詞した楽曲です。改めて、『川の流れのように』の歌詞をじっくり聞くと、今の48グループの楽曲やコンセプトとひとつになっているような内容で驚かされました。長く続く道があって、帰ることができる故郷がある。それはおだやかに、いつまでも変わらなく、まるで川の流れのようなもの。それは夢を目指し、挑戦しながら大きくなり続けているグループの姿と重なるものです。
 2曲目『フライングゲット』から7曲目『風は吹いている』では、演劇の世界観を引き継いだセットリストだと思います。『フライングゲット』と『Baby!Baby!Baby!』で歌われる誰かを好きで憧れる気持ちは序盤でキヌタが阿国に抱いていたものと重ねて感じられます。『制服が邪魔をする』と『今度こそエクスタシー』のセクシーさはたぬ蔵一家の大人の雰囲気の延長線上にあることでますます魅力的に感じました。
 『君の名は希望』は、舞台裏に並べられた準備中のセットそのままの中で歌われ、まるで賑やかで楽しくも忙しいたぬき祭りの合間にひととき訪れたキヌタと阿国2人だけの時間を演出しているようでした。2人の関係にも歌詞の世界観にもぴったりな演出で、胸が熱くなりました。
 そして、東日本大震災の復興を支援する楽曲でもある『風は吹いている』を聞いていると、故郷の復興を目指す阿国一座の境遇や、キヌタとたぬ蔵一家のこれからのことを考えてしまいます。
 演劇の間も感じていましたが、ライブ中、明治座という劇場のすごさを見せつけられました。その奥行きが楽曲の世界観に観客をさらに引き込み、ステージ中央の「盆」と呼ばれる地上3階から地下1階まで繋がって動く回転舞台はメンバーのパフォーマンスをよりダイナミックに見せてくれます。伝統だけではない明治座の豪華設備、他では見られない最先端の舞台演出に痺れました。
 8曲目『スキ!スキ!スキップ!』からはスタンディングの許可が出て、ますます盛り上がりました。明治座のライブは生歌ということです。より熱く、より可愛く、よりメンバーと心を通わせられるライブでした。最後の曲『メロンジュース』は本当に盛り上がり、席を立って、明治座を離れてからも余韻が止まりませんでした。


 本格的な演劇と歌謡ショー形式のライブ。明治座でHKT48は今までに見たことがないアイドルのステージを見せてくれました。演技や歌を通じてメンバーは成長し、伝統ある明治座での単独公演は自信に繋がり、これ以上にない最高の環境の中でHKT48メンバーを見ることができました。
 でも、それ以上に、HKT48が明治座で見せてくれたものがあります。それはアイドルの可能性です。演劇も歌も踊りもそれぞれが素晴らしいエンターテインメントであり、それを同時に見られることがこんなにも幸せなのだと僕は知りませんでした。まだまだアイドルは挑戦できる、面白くなると確信しました。

 HKT48の明治座公演は明日4月23日で千秋楽となります。ぜひ大成功させて、また明治座や他の舞台で再演して欲しいです。もし実現したならば、絶対に駆けつけてキヌタと阿国の物語と成長したHKT48メンバーを見に行きたいと思います。その際には皆さんもぜひ足を運んでみてください。


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