読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

細々とこっそりとちまちまと

アイドルソングの感想・レビュー、ライブレポ。

個人的すぎて伝わらない映画「イニシエーション・ラブ」の感想(ネタバレ無し)


 有名な原作。大好きな前田敦子さん主演。普通ならテンション上げて絶対見に行くのですが・・・。どうも堤幸彦監督の映画には苦手意識があります。ドラマは好きなのもあるのですが、映画だと地雷が多いというか。映画館に入っても、チケットを買っても、モヤモヤした気持ちは消えず、こんなツイートだってしたくなります。


 ・・・そんな決して明るくない気持ちと思い込みをスタンド席のはるか向こうまで打ち返してくれる映画でした。


 これから映画本編のネタバレ無しで感想を書いていきます。それは、映画冒頭で「この映画にはある秘密があります〜〜」と映画『シックス・センス』的なお達しを守りたいからではありません。まだ見ていない人への配慮でもなければ、ブログ炎上を恐れるチキンな気持ちの表れでもありません。
 では、なぜネタバレ無しで書くのか。理由はとても簡単です。必要ないからです。映画の宣伝に使われている"衝撃のラスト"も"どんでん返し"も、僕が映画を見て感じたこと、上映時間110分で体験したことに比べたら小さなものだったからです。
 ネタバレ無しの映画『イニシエーション・ラブ』の感想が読んで下さる皆さんにとって面白いかどうか僕にはわかりません。読んだ人が映画館に行きたくなったり、映画の内容を思い返して楽しんでもらえたり、そういうことにはつながらない可能性が高いと思っています。もし、見たい映画が何本かあって、見に行くかどうか決める参考にしようとこの記事を訪ねてくれたのなら、それはとても嬉しいですけど、お役に立てないかもです。すみません。


 乾くるみ先生が書いた映画の原作本のことは、発売して早いうちに知っていました。大学時代の友人の誰かが教えてくれたのでした。勧められて買ったのか、借りパクしたのか覚えていませんが、ハードカバーの原作本がある時期ウチにもありました。でも、手元に置いたまま、表紙を開くことはなく、何度かの引越しを経て、いつの間にか失くしてしまいました。おかげで原作本は未読のままです。
 大学時代の僕は吹奏楽部に入っていました。吹奏楽部はとても体育会系な文化部でした。毎週の部活は遅刻欠席にうるさく、部活が無い日も自主練を求められます。土日の部活も当たり前にあって、春休みは新歓、夏休みはコンクール、冬休みはアンサンブルや卒業式の練習、休みが本当に少なかったです。まぁまぁ強い大学だったので、練習が映画『セッション』に近い雰囲気になるときもありました。「大学のサークル」という言葉の響きからはみ出た活動内容でした。
 ハードな活動を通して、部活内のつながりは強くなっていきます。先輩・後輩の縦のつながり。同級生の横のつながり。飲み会やファミレスで語り合う機会も多く、なんでこんなに一緒にいるんだろうと思うくらい時間を共にしていました。お互いの家と家を行き来して、ご飯を食べたりPSしたりDVD見たり。部内恋愛も盛んで当事者はコソコソイチャイチャ、それ以外は人の恋愛話を肴にワイワイやってました。
 懐かしい。本当に懐かしい思い出です。過ごした時間、場所、感覚。忘れてしまったことも多いですが、忘れられないことも数多くあります。思い出すと、まるで映画のような映像が頭の中で流れます。それは追憶。その舞台は僕の母校・静岡大学でした。原作者・乾くるみ先生、そして、映画『イニシエーション・ラブ』の主人公・鈴木の母校です。


 青葉通り、常盤公園、静岡駅前。夏になれば静波海岸に行って、クリスマスには静岡駅前の老舗ホテルのディナー。物語は1980年代、僕がいたのは2000年代と時代はだいぶ違います。でも、鈴木と前田敦子さん演じるヒロイン・マユの生活エリアやデートコースにはとても親しみがありました。あの時代に生きていたら、僕もあんな風に過ごしていたのかもと思いました。
 鈴木の人物像もそうです。静大理学部数学科の先輩がまさにああいう感じでした。話し方や歩き方、部屋の感じ、とても雰囲気が出ていて懐かしくなりました。また、静大生にとって原付は必須ツールでした。アルバイトに行くとき、街に買い物に出かけるとき、生活の足として大活躍でした。劇中で鈴木が原付で疾走するたびに、当時の自分を重ねていました。
 僕がいた頃、「大学生の同棲率が1番高いのは筑波大、2番は静大」という都市伝説がありました。2位かどうかは置いておくとしても、とてもリアルだと思ったことをよく覚えています。身近に同棲しているカップルが多かったですから。街から離れた山沿いに大学があり、限定された狭いエリアの中に男女共ひとり暮らしをしていました。そうして自然と付き合った男女が一緒に暮らすようになるのです。そんな環境の中では、同棲しない人にとっても異性の家が身近な存在になります。僕みたいなボンクラでも普通に女の子の家に行っていたのですから、今思えば相当面白い状況です。
 静岡という舞台と主人公が静大生だったことが、マユの部屋もリアルな空間として感じさせてくれました。時代も違いますし、マユは大学生ではありません。でも、僕はそんな違いを超えて共感してしまいました。部屋の温度や匂い、床の冷たさやクッションやベッドの柔らかい感触までもわかるような気がしました。まるで自分があの部屋に行ったことがあるような、強烈なリアリティーを感じたのでした。
 それだけではありません。大学時代の恋人と社会人になって変わってしまう心。その心変わりも身に覚えがあります。遠距離(中距離)恋愛初期の電話のドキドキ感と一緒にいられる喜び。少しずつ動いていく心と面倒になっていく関係、離れてしまう距離。決して多くない経験の中にあった"あのとき"を突き付けられるようで、リアルで後味が悪い気持ちになりました。


 少し話を変えます。


 映画において最も大事なことは何か? それは「リアルさ」だと思うときがあります。『スターウォーズ』のようなSF、『ハリーポッター』のようなファンタジー、そういう映画を否定する意味ではありません。例えば、シリアスな映画で生死があいまいだったり、ガードの固い女が急に主人公の男とキスをしたり、最強のボスが終盤あっけなく何の理由もなく負けたりすると「リアリティーが無いなあ」と冷めてしまうことはありませんか。いい映画とは、作品の中で"アリ"と"ナシ"の線引きがはっきりとあって、映画を見ている観客をフィクションの世界に没頭させてくれるものだと僕は考えます。(中にはハチャメチャさこそを楽しませてくれる面白い映画もありますが)
 その意味で、リアルさが無い映画。よくわからない映画。僕の苦手な映画の代表が堤幸彦監督の映画でした。どうして勝つの。どうしたら死ぬの。これは何の意味があるの。前半と後半で別人じゃね。などと過去に感じた違和感を言い出すとキリがありません。堤幸彦監督はわざとやっているつもりなのかもしれませんが、僕には合わない、わからないと感じることが多かったです。そうして、堤幸彦監督を"うさんくさい"演出をする人だと評価していました。
 では、『イニシエーション・ラブ』ではどうでしょう。前述した通り、個人的な事情によってリアリティーを感じざるを得ない映画です。舞台、状況、関係性。異常なくらい「知ってる。わかる。知ってる。わかる」の連続でした。一方で、時代や設定の違いはもちろん、フィクションの世界と個人の事情の間には埋められない溝があります。僕は松田翔太じゃありませんし。経験によって生まれた圧倒的リアリティーと映画の嘘の溝を埋め、橋渡しをしてくれたのが、他でもなく堤幸彦監督の"うさんくさい"演出だったのではないかと思いました。
 そもそも今作では彼らしい演出は抑えめでした。そんな中でも、ギャグやおふざけ、不自然なカット割りなど"堤幸彦監督らしさ"が炸裂するたびに、不必要に膨らんでいた僕のリアリティーが緩み、フィクションをフィクションだとわからせてくれて、再び物語の世界にピントを合わせてくれる作用がありました。だからこそ、『イニシエーション・ラブ』を「リアリティーがあるフィクション」、「自分のことのような映画」だと感じることができたのだと思います。
 僕以外の人、普通の人がこの映画の堤幸彦監督についてどう思うのか、それはわかりません。そもそも、こんな感想記事を書いているくらいですから、映画の正当な評価とか全然できませんし。
 でも、もしかしたら、『イニシエーション・ラブ』は、遠距離恋愛の経験がある人や、誰かを好きでい続けることができなかった人、恋人とすれ違ってしまった過去がある人、つまり、恋愛の苦みを知るすべての人にとって、共感できる映画なのかもしれません。
 もしもそんな風に思ってくださる人がいるのなら、堤幸彦監督だからこそ撮ることができた映画であると証明されますが、こればかりはやっぱり僕にはわかりません。映画を見た人、これから見る人の気持ちを聞かせて欲しいと思うばかりです。


 これはネタバレにはならないと思いますが、「イニシエーション」とは「通過儀礼」という意味です。難しい言葉ですね。「本当の大人になるために経験しなければならないこと」みたいな意味です。


 大学4年の夏、就職に向けて僕は運転免許を取ってすぐに車を買いました。中古の赤い軽自動車でした。大学生活の最後の時間、仲間たちと静岡のいろんなところに行ったり、当時付き合っていた恋人とドライブをしたり旅行に行ったりしていました。僕は運転が好きで、彼女は赤い軽自動車を気に入ってくれていました。
 社会人になってしばらく経って僕は車を買い替えることにしました。そのとき彼女に言われた「軽がいなくなるのは寂しいなあ」という言葉。そのふとした言葉を、何かの拍子に思い出すことがあります。こっちから振った彼女に未練を感じているとかそういうのではなく、思い出が上手に飲めなかった薬のように口の中で溶け、苦味を感じてしまうのです。
 映画『イニシエーション・ラブ』のキャッチコピーは「あなたは必ず2回観る」。そんなケチなことは言わないでください。映画館やDVDで、僕は5回、10回、100回と繰り返し見るでしょう。それくらい個人的で大切な映画になってしまいました。マユを演じる前田敦子さんの素晴らしい演技を見るたび、独特な声を聞くたび、画面の向こうのマユと目が合うたびに、口の中を苦く感じてしまうはずです。
 そんな僕にとって、"どんでん返し"以上の謎がこの映画にあります。彼女が本当に考えていたこと。彼女の行動の意味と彼女が胸に秘めた気持ち。それはきっと100回見ても、1000回見てもわからないような気がします。僕の『イニシエーション・ラブ』はとっくに終わっていて、答えは追憶の中で失くしてしまっているのですから。




イニシエーション・ラブ -あの頃カーステから流れていた80'S BEST HITS-

イニシエーション・ラブ -あの頃カーステから流れていた80'S BEST HITS-

 『イニシエーション・ラブ』は音楽映画でもありました。70〜80年代のヒット曲が劇中で使われています。サントラをゲットして聞いてみたいです。

hon.bunshun.jp
 映画のロケ地や原作に登場する場所は、僕にとっても懐かしく思い出が詰まった場所ばかりです。いつか静岡を訪れたときに回ってみたいものです。

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

 映画を見終わってすぐに原作本の文庫版を買いました。あのとき読んでいればという気持ちと、読まなかったおかげで映画を味わえたという気持ち、両方を感じています。

さよなら歌舞伎町 スペシャル・エディション [Blu-ray]

さよなら歌舞伎町 スペシャル・エディション [Blu-ray]

 『イニシエーション・ラブ』を見て前田敦子さんのことますます好きになりました。すごい女優さんですよ、本気で。過去作のBlu-rayもこれからどんどんゲットしていきたいです。




 そんなこんなで、長々と失礼いたしましたー。なんだかんだ言っても、自分の好きなものは少しでも多くの人に好きになってほしいもの。少しでもそうなればいいなと思い書きましたが、いかがでしたでしょうか? 感想聞かせてください!

 ではではー!